※本記事は、過去に株式会社マーキュリアインベストメントの
コーポレートサイトへ掲載された記事であり、掲載内容は作成時点のものです。
当社は、昨年の上場時より5つの投資戦略を掲げてきました。
その中でも、日本社会の高齢化が進む中、キャッシュフローを生み出す投資の重要性が高まると思います。
当社においては、航空機に着目した投資戦略について、
上場以来準備を進めていることをお伝えしてきており、
投資家の皆様にも関心を持っていただいているものと思います。
そこで、今回のマーキュリアウェイでは、本戦略にご協力いただける専門家の方々を交えて
ディスカッションさせていただきたいと思います。
豊島 はじめに広谷さん、今回は我々のファンドのパートナーとしてご参加いただき、誠にありがとうございます。航空機投資戦略と言っても、一般の方には馴染みが薄い分野だと思います。広谷さんが日本代表を勤められるDVB※1 と航空機ファイナンス、そしてご自身についてご紹介いただけますでしょうか。
広谷 DVBは、交通分野に特化した銀行で、ドイツの大手金融機関であるDZBANKグループの一員です。
具体的には、航空機・船舶・鉄道に対する融資及び投資等を手がけています。航空機のビジネスでは、ロンドン、シンガポール及びニューヨークに加え、東京も重要な拠点です。DVBの主業は融資業務ですが、他の銀行との最大の違いは、そのアプローチがアセットベースであることだと思います。DVBには航空機の価値の分析に特化した部門の他、投資チームもあり、現時点で1,000機を超える航空機に対して投融資を行っていますが、そのうち約140機が投資となります。そのため、航空機のリースマネジメントやリマーケティング※2 を行うチームも自前で持っており、この点が弊社の強みと自負しております。さて、私は、1998年に日本開発銀行(現・株式会社日本政策投資銀行)に入行し、主に融資の面から航空機ビジネスに携わってきました。2010年から2011年にかけては、日本航空の事業再生にも携わっていました。我が国でも、航空機への融資は相応に普及してきましたが、投資という点ではこれからというところだと思います。交通ファイナンスに特化したDVBにおいて、航空機投資の魅力をより多くの日本の方々に理解してもらいたいと考えたのも、DVBに転職した理由の一つです。日本開発銀行・日本政策投資銀行時代には、豊島さんと様々な投資の取り組みをしたことがありますので、今回再び一緒に仕事ができることを楽しみにしております。
豊島 では次に野崎さん、この度は外部アドバイザーとしてご協力いただき大変心強く思っております。世界の航空機オペレーティングリースの歴史は、45年前のアエロメヒコに対するDC8のリースに始まったと言われていますが、野崎さんはその歴史の大半の期間、航空機ビジネスに関わってこられました。これまでのご経験をご紹介いただけますでしょうか。
野崎 私は、1989年に伊藤忠商事に入社し、航空機リースを担当しました。当時の伊藤忠は767-300ERや、開発中の737-800をボーイングに先行発注するなど、日本のオペレーティングリースを牽引する存在でした。その後、2002年に航空機オペレーティングリース専門会社設立を目指す三菱商事に転職し、米国にて航空機リース会社(現・MCアビエーションパートナーズ:MCAP)を立ち上げました。そこでは、同社が100機を超える機材を保有し、日本を代表する航空機リース会社の一つになるまで、同社の発展に貢献してまいりました。昨年末にMCAPを退職し、これまで200機以上のリースや売買に携わってきた知見とネットワークを生かすことによって、日本と世界の航空機投資業界の役に立ちたいという思いから、米国にて旭アビエーションを設立しました。
豊島 ありがとうございます。ところで野崎さん、今この時期に航空機投資が注目されているのは何故だと思われますか。
野崎 確実な旅客需要の増加が見込める一方、機材の供給に参入障壁がある分野だからです。航空需要はGDPの2倍で伸びると言われており、ほぼ15年で倍増しています。北米、ヨーロッパや日本では航空マーケットは成熟し、近年大きく伸びておりませんが、中国、インド等に牽引されたアジアでの経済成長が続いており、航空需要も増大しています。私が新入社員として伊藤忠商事で航空機リースを始めた時、世界で民間ジェット機は10,000機程度しか飛んでおりませんでした。28年後の現在、その数は22,000機となり、機体の大型化も進み供給座席数は3倍を超えています。
豊島 ボーイング社によると※3 今後20年で、ボーイング、エアバスを中心に新造機が41,030機製造され、20年後には退役機数17,560機を差し引いた上で、46,950機のジェット機が必要となると言われていますね。
野崎 その通りです。今後20年で製造される航空機に必要な投資額は6.1兆米ドル※4 と予想され、航空機リースの重要性はますます高まるばかりです。さらに、現在まで150席以上の航空機は、ボーイング、エアバスという2社のデュオポリー(二社寡占)であり、好不況によらず年間の製造機体数も一定であることから新造機の価格が安定し、これにより中古機価格も安定的に推移しております。これは世界中に造船業者が数多くある船舶市場に比べて、航空機市場が安定する一因と言えます。
豊島 現在、世界の商用ジェット航空機約22,000機の内、約8,900機がリース保有されています。航空機リースがこのように大きな広がりとなった背景には、エアラインのニーズと資金の出し手の指向の両面があると思います。そのあたりの事情についてお聞かせいただけますか。
野崎 エアラインがオペレーティングリースを選択する理由は、大きく分けて2つあります。まず、新規参入や規制緩和により激しい競争にさらされる航空業界において、機材を大量に保有し続ける資金的余力がなくなってきたことがあります。
もう一つの背景が機材調達の自由度です。現在、新造機を新たに発注したとしても、人気機種では物理的に取得できるのが5から10年先となるため、10年先のオーダーまでかけることもあります。そこまでしないと新造機を予定通りに取得できないためですが、10年先の自社の姿やマクロ環境は見通せません。市況や業績が悪化し、購入予定の航空機を引き取れない場合には、既にメーカーに支払い済みの、機体価格の数十パーセントにもなる前払い金が違約金として没収されることもあります。
豊島 そういえば、スカイマークの経営危機の時も、発注済みのA380のキャンセル違約金が大きな問題となりました。反対に業績が良かった場合でも、せっかくの成長のチャンスに対して航空機が足りないという状況も発生します。
野崎 だからこそオペレーティングリースが求められるのです。航空会社は、既に機材を先行発注しているオペレーティングリース会社から、人気機材を1年半から2年程度のリードタイムで調達することで、こうした問題を解決できるようになりました。また、オペレテーティングリース機材の返還や延長の柔軟性を持つことによって、中古航空機市況の影響を受けることなく、機材の調整が自由にできるようになります。
広谷 新造機を発注しても、人気機種ではデリバリーされるまでに5年以上のリードタイムが必要という状況は、オペレーターであるエアラインにとって高い参入障壁となっていましたが、オペレーティングリース市場が拡大したことにより、新規参入のエアラインやLCCが急速に事業を拡大することが可能となりました。
豊島 航空業界の中で、航空機を運航するビジネスと、航空機を保有するというビジネスの分離が明確に意識されてきたということですね。これは、ホテル等の他の産業でも起きている現象です。一方、機材を保有するためには誰かが資金を付ける必要があります。そのために、航空機と投資家を先進的に結び付けてきたのがDVBだと思います。DVBが手がけられている約140機の投資には、海外の大手プライベート・エクイティ・ファンドの資金も入っていると聞きます。実際にはどのような資金がこの分野に投資されているのか、広谷さん如何でしょうか。
広谷 資金の出し手側の話ですね。航空機ファイナンスと言っても、エアラインに対する貸し付けと機材に対する投資では考え方が異なります。機材に投資を行うのがリースとなる訳ですが、航空旅客需要の成長や航空機の需要の高まりを見越して、主に欧米の年金や保険会社がリース会社及び航空機に対して、既に投資をしています。金融機関も融資判断において、エアラインの信用力に加えて、航空機のアセット性に着目して融資を行う傾向が強くなってきています。過去の航空会社の倒産時においても、再生のために必要となる機材のリースについては継続されることが多かったことからも、その投資対象としての安全性が分かるかと思います。さらに、投資利回りの良さに注目し、プライベート・エクイティ・ファンドやオルタナティブファンドが航空機への投資を積極化させています。このように、航空機が使われることから生まれるキャッシュフローを目指した投資が世界的に広まっているわけですが、日本では航空機が使われることにより生まれるキャッシュフローより、減価償却に着目したスキームの認知度が高く、航空機の生み出すキャッシュフローからリターンを得るという面では、まだまだチャンスがたくさんあると言えます。航空機の耐用年数は、概ね20年程度となっており、日本の減価償却期間よりも長いことから、中古航空機を取得するという今回の航空機投資戦略のコンセプトが、日本におけるモノへの投資を拡げることを期待しています。
豊島 モノへの投資と言った場合、広義で考えるとその代表は不動産となると思いますが、航空機投資と比較してみてどのような特徴があるのでしょうか。
広谷 そうですね。例えば、新興国で不動産を買おうとした場合には新興国通貨の問題が生じますが、航空機は基本的に米ドルの世界です。また、不動産は政治経済環境が変化しても文字通り動かすことができませんが、動産である飛行機は原則として移動が可能なので、需要のある地域・国に持っていくことが可能です。このため、一部の地域・国の政治経済の影響を受けにくいという長所があります。
野崎 加えて、航空機は世界各国で登録制度が確立されており、所有権や抵当権が法律や国際条約で守られています。従って、万一の債務不履行の場合には、短期間での機体取戻しが可能なのです。また、機体の運航整備には極めて厳しい基準が適用されていますので、管理の面でも不安がありません。不動産の方が管理の面ではばらつきがあるのではないでしょうか。
広谷 その通りですね。投資の視点で整理すると特徴は3点有ると思います。①主に投資対象となる流動性の高い機材に関しては、メーカーがボーイングとエアバスの2社しかない為、供給が大きく増加することがなく価格が安定している、②エアラインが各国の規制を遵守しつつ、責任をもって整備している為、機体のコンディションが保たれている、③ 目利きや整備、法律等の専門性が高く、扱えるプレイヤーが限られている、という点が挙げられると思います。
豊島 他にも何か特徴はありますか。
野崎 先ほど簡単に触れられていましたが、日本における航空機リースは税効果を目的としたものが多く、キャッシュフローの利回りは殆どありません。そのため、航空機リースは利回りが低いというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。実は、キャッシュフローから見た航空機の魅力は不動産以上だと思います。カナダや米国の年金等がキャッシュフローを求めてオペレーティングリースに投資しているのに、日本ではまだこの分野が普及していないという現状は残念です。
豊島 野崎さんは現在米国に会社を設立し、航空機リースの本場でご活躍されている大変貴重な存在であると思います。米国では、更に積極的にリスクリターンを取りに行く航空機投資戦略もあると聞きます。
野崎 そうですね。米国を中心としたヘッジファンドには、例えば高利回りを追求して価格の下がったワイドボディ機※5 をロシアなど新興国のエアラインにリースし、15%程度の利回りを追求するファンドや、10年以上の経年機に集中的に投資し、リース終了時に解体してエンジンや部品を売却したり、貨物機に改造して高い利回りを狙うファンドもあります。その他にも、上場するリース会社に出資、又はリース会社とジョイントベンチャーを立ち上げたり、リスクの高い新興国のエアラインにリースし、高いリース料とメンテナンスリザーブ(修繕積立金)を取るなど、あの手この手で利回りを追求するファンドもありますが、相応のリスクが伴うものとなります。着眼点としては、数の少ない機材や年数を経ている機材、信用力の低いレッシー※6 等がありますが、あまり無理をせずに、機齢の若い標準機を中心にリスクを抑えても、相応に魅力的な利回りを目指すことができると思います。
豊島 この点は、不動産のキャップレート※7 が非常にタイトになっている中、アセットに着目したキャッシュフロー投資に航空機を用いるのが魅力的な戦略と考える大きな理由です。マーキュリアインベストメントの主業は投資運用業です。航空機への1機毎の投資に比べ、何機もの航空機への投資をパッケージ化することによって、投資期間も調整でき、リスクの分散や効率的な管理が可能となります。リスク変換と満期変換を経て、航空機投資を金融商品に作り替えることが我々の果たすべき役割であると考えております。
本日はどうもありがとうございました。
広谷 洋一
DVBトランスポート・ファイナンス・リミテッド
マネージング ディレクター&東京支店長
日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に1998年入社。JAL再建等を経て、航空機ファイナンスチームの立上げに従事し、同行を日本を代表する航空機レンダーへと主導。欧米・アジアの航空会社・航空機リース会社への融資を実行。国内金融機関向けの航空機関連シンジケートローンも多数組成。2015年DVBに入社、航空機融資に加え、航空機投資等に従事。
東京大学経済学部卒
テキサス大学オースティン校経営学修士
野崎 哲也
旭アビエーション
マネージング ディレクター
伊藤忠商事株式会社に1989年に入社。宇宙航空機部を経て、航空機オペレーティングリース子会社である米国伊藤忠エアリースにてジェネラルマネージャーに就任。2002年に三菱商事株式会社に入社。米国での航空機リース会社立ち上げに従事し、ジェネラルマネージャーとして発展を主導。2017年に旭アビエーションを創業。
東京大学工学部卒